本多猪四郎『マタンゴ』1963年/日本

かねてより噂は聞いており、観たいと思っていたのですが、先日CATVの日本映画専門チャンネルでやっていたのを録画。
私は観る前に情報を得ないのを身上としていたのですが、この作品の場合は観る前から期待しまくりでした。あまり良いことではないのかもしれません。私個人的には。
で、やはり面白かったです。恐怖映画の古典といいますか、基本的な要素をすべて押さえてある。密室下での人間性、利己主義、理性、性、等など。しっかりと人間のドラマとしてまとまっています。しかし、想像の範疇を超えていないかな、と今観ると思いますが。
それプラス、本多&円谷の東宝特撮のテイスト。当時観た人って、東宝特撮を今の人が『マトリックス』を観るような感覚で「リアル」だと思っていたのでしょうか。ヨットの全景のシーンなんて、合成まる分かりですよね。今観ると、そういう現実感からのずれが逆にこの作品のないようとうまく合致していて、うまく機能しているように思います。陳腐ともいえる幻覚の表現も許せてしまう。
まぁ、冷たく言い放ってしまえば文明批判の作品ですよね。ありがちな。
でも、なぜかこの作品は魅力的だ。フェティッシュな魅力のある特殊効果の所為でしょうか。ヤン・シュヴァンクマイエルなどの作品に感じられる魔術性をかの作品も放っていることは確かでしょう。『マトリックス』のような目を見張るようなVFXには無い魔術的な魅力。生々しい魅力。
それに、役者の表情。特に最初にきのこを食べてしまった男のその後の表情の変化は、悲しいほど滑稽で幸せそうである。
ともかくこの映画、何個かの魅力が有機的に化合して奇跡的に面白くなった作品でしょう。
ちょっと、過大評価気味の文章ですが。