ヴェルナー・ヘルツォーク『神に選ばれし無敵の男』@テアトル梅田

ヘルツォークって映画自体はあんまりうまくないですよね。むしろ映画の枠からはみ出てしまいそうな、「狂気」とかいった、マイノリティーを扱うその主題の固有性で語られる人だと思います。映画自体は衝撃的ではなく、あくまでもその対象が「斬新」なだけなような気がする。更に言うなら、クラウス・キンスキーという狂気の権化のような伝説化した俳優とヘルツォークとの格闘の歴史としても語れるかもしれない。
この作品も「ヘルツォーク的」な映画であるとは言える。本物の重量挙げチャンピオンや、ピアニストを主要キャストに起用するあたりはまさにそうである。実質上の主役といって良い、ジシェであるが、例えば『カスパー・ハウザーの謎』の主人公のような「本物」が持つ独特の空気が全篇からは感じられない。一部からは感じられることはできたが。
この作品は面白くなかった。駄作の部類に入るといって良い。内容も形式も普通だった。
しかし救いもある。この映画において最も良かったのは当然ティム・ロスの存在である。彼はフィルムに自らをしっかりと刻み付けることを会得しているのであろう。これは決して「演技」のうまさからのみ生れるものではない。『ギャング・オブ・ニューヨーク』のダニエル・デイ・ルイスにまでは及ばないものの、自分の映っているシーンの雰囲気を完全にものにしている。これを観るだけでも、男性サービスデー(¥1,000)程度の価値ならある。しかし、これが逆にティム・ロスが登場するまでのシーンやその後のシーンの迫力の無さを浮き彫りにしてしまっている。