<シリーズ「ハダカの履歴書」女優篇(1) 宮下順子>@東梅田日活

主人公の大学生の台詞回しがいちいちチャーミングで面白い。あれは何弁だろうか。「本気で染子さんに惚れとるね!」。染子(宮下順子)の別れた夫(といっても、かなりの老体だが)が何とかせがんで一度だけ再び彼女とまぐわうことが出来、そのまま泡を吹いて腹上死するくだりは圧巻。おかしくも切ない。
ラストのトラックの荷台での濡れ場において、背景に合成された後ろに流れていく道路の画が何故か素晴らしい。あと、背景、バックで言えば、前半の置屋での情事のシーンでは必ず後ろの障子に水面に光が青白く反射したのが映っているのがとても印象に残った。
なかなかの佳作。

もちろんこれが本命で観に行った。
冒頭の日活のロゴが出るときから流れ出す芸者の歌声に先ずやられてしまう。それほど数は見ていないのに「おお、神代だ」という感じ。神代は音楽というより唄の使い方が非常にうまい(この前制作した拙作でこれを試みるもあえなく失敗)。ゴダールの『ヌーヴェル・ヴァーグ』をも思わせる、要所要所でカットインされる横移動のイマージュこれが全体的に(特に宮下順子江角英明の場面)ワンショットが長い作品にとても小気味良いリズムをつけている。神代の作品の編集はナラティブな意味ではバラバラに繋いではいるのだが、純粋なイマージュとして観ると、そのリズムはとても音楽的で作品全体でひとつの唄になっているようだ。要所要所でカットインするタイトル、ニュース写真それに呼応するかのような人物たちの動き、物語。実はかなりユニークで劇的なモンタージュが成されているのに、それがベタなギャグのようにみえ、それでいてまったく嫌味でなく、ただただ楽しい。オーガズムの瞬間軍隊の演習シーンに切り替わりバックグラウンドのサウンドを排し二人の私語だけが聞こえる。そして突撃しながら「初会の客には気をやるな!」。最高である。「ただただ楽しい」。これは私の神代に対する個人的なキャッチフレーズになっている。
そして圧巻はラスト近くの併走する人力車での口論。ここのシーンにそれまでの横移動のカットが全て収束しているのかとさえ思わせる。
抜群に面白い。傑作である。

決して悪い作品ではないと思うのだが、神代の次に観たのがいけなかったのだろうか、集中力も切れてしまったし、あまりにも下品な前衛的手法にうんざりした。本多猪四郎にポルノを撮らせたらこの作品の遥上を行くだろう。実相寺昭雄ならば言わずもがな。3分の1ほど観たところで退場。若き日の風間杜夫が出ている。

    • 当然いずれも日活作品。

神代の作品はしっかり睡眠をとった状態できちんと観なおしたい。これは明かに傑作だろう。