サミュエル・フラー『裸のキッス』1964年/アメリカ をビデオで

話の筋自体はどうということは無いメロドラマ。それでも、障害児施設を大々的にフィーチャーし、朝鮮戦争の記憶がちらりと見えるあたりは一筋縄ではいかないものであることも確か。足が欠損しているのは子供であるが、大家の夫が朝鮮戦争でなくなったあたりと、微妙にリンクするような気がする。すぐさま傷痍軍人を連想する。このあたりの連関はベトナム戦争後のアメリカ映画においてより顕著にみられるし、第1次大戦後のある種の芸術運動のイメージとも重なるような気がする。が、あまりこの作品そのものにおいてはあまり重要なファクターではないだろう。
あまりにも衝撃的なオープニング。軽快なジャズにのって我々の目の前に現れる光景は、キャメラに向かって激しく殴りかかってくる女性の姿、そのあまりの激しさに、女性かつらは取れ、その際かつらを取る係のスタッフの姿が見切れてしまうほどである。やがてこの光景は繰り返されることになるだろう。この映画は終始、主人公であるケリーや、婚約することになるグラント、警官のグリフ、売春宿の責任者キャンディ、それぞれの表情に、何か裏があるぞ、この物語は一筋縄ではいかないぞ、と物語っている。
オープニングの強烈なイメージといい、そしてある種でたらめで、あるカット数テイクの中から使える部分を適当につぎはぎしたかのような乱暴な編集。さすがに奇妙なフィルムである。ほぼ同じアングルで、ほんの少しだけサイズが違うようなショットを、何の必然性も無く堂々と繋げてしまう。まるでキャメラが本の一瞬被写体から注意を逸らしてしまったかのような繋ぎ。なんとも奇妙である。