黒沢清『ニンゲン合格』1998年/日本 をビデオで

ああ、黒沢清のフィルムはなんて面白いのだ。これは笑う映画だと思う。
ラスト近くの葬式での『旅芸人の記録』の引用にドキッとしつつも、やはり中盤での妹が土地を売ると言い出して追い出す場面の、あのゴダールを思わせる、兄妹喧嘩→ゴミ袋ぶつけ合い→燃え盛るドラム缶を蹴り倒す→その脇を哀川翔の運転するスポーツカーが通りすぎる→妹を乗せる→去る、というシーンのすばらしいこと。そして『悪魔のいけにえ』のチェーンソーの応酬。
黒沢清の何でそんなカットを撮影した?そしてここに挟み込んだ?と問い詰めたくなりながらも、ニヤニヤしてしまいそうになる映像。今にもキャメラが勝手に動き出してしまいそうになるような、最後近くでの蛇口から落ちる水滴の映像の後に持ってこられた暗がりの部屋を捕らえた映像は今にも諏訪敦彦『M/OTHER』のラストショットのようにどこへとも無くパンしてしまいそうだった。
ひょんなことからヴァーチャルに実現した「家族の再会」のシーンなど、笑いを禁じえないほどだった。どんどんと家族にとって目障りな奴が退場して行くラストバッターの「哀川翔」の表情。ウクレレを爪弾き、決して上手とは言えない歌を披露し、エンジンつきキックボードに乗る(居間なら間違い無くセグウェイだろうがやはりエンジン音も欲しい。ともかくあのエンジン音とそれに反比例した速度の遅さが必要なのだ)洞口依子アンナ・カリーナなら哀川翔は間違い無く黒沢清にとってベルモンドだろう。
黒沢清のフィルムには奇妙という言葉がやはり一番しっくりくる。