ロバート・アルドリッチ『キッスで殺せ』1955年/アメリカ をビデオで

オープニングからして素晴らしい。小池一夫の言う最初のコマで裸の女を走らせるというアレの手本とでも言うべき、というかこれを見て小池一夫は手本としたのではないかとすら思える、素晴らしい導入部から、疾走する路面の上を滑るオープニングクレジット。デビッド・リンチが『ロスト・ハイウェイ』のオープニングクレジットでやろうとしたのはどう考えてもこれだろう。最初の数分間だけで、一晩語れそうだ。
作品全体を通して流れる重苦しいムード。まるで『バットマン・リターンズ』の蝙蝠男のように結局、我等がマイク・ハマーは何もせず、事件は終末を迎える。まさか主人公が被曝するとは。無意味にモテるマイクのそのモテぶりすら、冒頭で女に指摘、予言されるそのマッチョな行動原理すら何もかも虚しく、恐ろしく美しく輝き、全てを焼き尽くし破壊する光、不可視な光の前で霞みゆくのみ。この作品は"THE END"という字幕で終わるのではなく、その先は不可視であるが故にここで終幕にせざるを得ないのである。
最初、「品物」はマクガフィンとして機能するものに過ぎないのかと思いきや、まさしくこの「品物」こそがこの作品の主題であり、その周りで右往左往する登場人物たちこそがマクガフィンに過ぎないとすら言えるだろう。