吉田喜重『ろくでなし』日本、1960年 をビデオで

まず、いろいろなことを云々する前に、吉田喜重のオープニングクレジットはどの作品をとっても、ただただスタイリッシュで、つまりスタイルが突出していて、デビュー作であるこの『ろくでなし』をとってみても、見る前はどんなデビュー作なのだろうかと、色々めぐらせている思いを、このろくでなしろくでなしろくでなし…という鋭利なクレジットが、ばっさりと切って捨ててくれる。
吉田の作品だけではなくて、いろいろな作品を見るにつけ思うのは津川雅彦は素晴らしい存在感を持った俳優であるということである。
津川雅彦をはじめこの悪友たちはほとんど同じ人種であり、ある程度悟っていて、ある程度馬鹿で、ある程度まじめで、ある程度感傷的で、ある程度子供で、ある程度大人であることにおいてさほどかわりはなく、状況次第では誰もが同様に確からしいていどに、入れ替え可能な組み合わせ順列のピースに過ぎないといっても過言ではないし、そういった自覚こそがある種のニヒリズムを生んでいるのであり、それはこれを記している現在でも意匠が違うだけでさほどかわりはないといえる。
そういった中でなお、彼がなぜ主人公として成り立っているのかというと、キャメラが吉田が彼をたまたま選んだといえばそれまでだが、津川雅彦であるから、主人公になり得たのであると断言しても良いのではないか。

吉田喜重 DVD-BOX 1