小津安二郎『東京物語』日本、1953年 をDVDで

観るのは何回目か忘れたが、これから数回観ることになるので、後日改めてまとめて書くとして、少しメモだけ。
熱海に行ったときに両親が泊まった旅館のにぎやかさ、両親も熱さとうるささで寝苦しく、なかなかよく眠れない。しかしながら部屋の前の2組のスリッパはきっちりと、寸分の狂いもなく、ピンと気を付けをしたように、つま先が少しそりあがるほどの緊張感で並んでいる。吉田喜重の指摘する空気枕や形見の時計の列に、このスリッパも堂々と加えるべきだろう。
代書屋をしている友人宅に一人で立ち寄った際、初めて父は煙草をのむ姿を見せる。実際にタバコを吸っているカットはワンカットだけだが、これがまるでうまい酒でも呑むように、唇を少し突き出して、うまそうに吸う。その後長男も同じような仕草でタバコを取り出すカットがあった。
長男と長女は共に自宅兼仕事場を構えている。開業医と美容室。
原節子演じる紀子と母親2人のシーン。母が紀子を「ええ人じゃ」と誉めるも決して紀子はそれを肯定しない。そのくだりでの2人の視線のやり取りはサスペンスだ。紀子の目のやり方は決して過ぎた言葉に恥じらいを見せつつも喜んでいるような恐縮しているようなものではなく、もっと恐ろしい何かを孕んでいる。紀子は恐ろしい女だと思う。
どのカットにもアッと思わせるような豊かな細部があって、とても言葉などではいい尽くせないと思ってしまう。だからこれは映画なのである。小津はやはりとんでもない。

東京物語 [DVD]

東京物語 [DVD]