キム・ギドク『春夏秋冬そして春』韓国/ドイツ、2003年 をDVDで

この物語の緊張感を保っていたのは、まぎれもなく扉であった。門扉が開くファーストカットが、一瞬合成ではないかと思わせるほど光にみなぎったコントラストをもってその奥へと目を向けさせる。寝室と本堂とを隔てる壁はなく、扉だけが孤独に存在しているが、その扉だけが唯一の交通手段であることを愚直に守り通すことがこの物語を成立させている。だからこそ、「夏」に色恋を知った青年が夜、扉を使わずに寝室を越境することがより罪深く響くのであって、姦通などよりもこのことのほうが、より美しくより罪深いことなのである。
しかし、表の門はうっかりきちんとくぐってしまう。このフィルムにおける扉の意味がひどく曖昧になったかと思うと、しばらく扉のシーンは出てこない。「秋」において、門扉はまたしても無邪気に開かれるが(もはや次の「季節」が始まったことの貧しい記号としてしか機能していなく、最初のような神聖な様相は帯びていない)決して寝室の扉は映されない。「冬」に思い出したように扉を開けて女を覗きこんでももはや手遅れで、わざとらしいものにしかならない。
「そして春」になったとき、子供に似顔絵など無邪気に書いてやるのではなく、まず扉について躾するのが、正しいあり方というものであろう。
この監督は(といっても2本しか見てないが)ツメが甘いように思う。

春夏秋冬そして春 [DVD]

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