フリッツ・ラング『復讐は俺に任せろ』アメリカ、1953年 をDVDで

三池崇史の『DEAD OR ALIVE』の記憶もあったので、妻の乗った車が爆発するようなそんな気はした。物語の流れからも、シーンのリズムからも、全体の構成からも確かにあの爆発は定めとしか言いようがないものであり、三池の映画を観ていなくても、何かが起きそうな空気は漂っていた。
しかし、そんな予感を尻目に堂々と驚くべきショットが目の前に広がる。車が爆発する映像はない。車に乗り込みエンジンをかける音が聞こえる。この音の演出の時点で車でもしくは屋外で、つまり妻の身になにかあるぞ、と予感させる。窓からの爆音と閃光にキャメラが驚いて見せる。これは振動で揺れたのではなくて、驚いたのだ。
このキャメラには感情があるかのようだ。例えばリー・マーヴィンに煮えたぎる珈琲をかけられ顔半分をやけどしたグロリア・グレアムキャメラが捉えるとき、物語的な必要がある時以外は決してその爛れた左半分を捉えない。たとえカバーをして隠しているときでもである。これは決して女優グロリア・グレアムに対する思いやりではなく、あくまでもこのフィルムの中でのみ成立する愛である。