アルフレッド・ヒッチコック『引き裂かれたカーテン』1966年/アメリカ をビデオで

盛り沢山でお腹一杯。素晴らしい傑作。いかがわしさというかハッタリというか、ヒッチコックの言うところのマクガフィンだが、マクガフィンというよりは本当にもう、ハッタリといってしまったほうが小気味良い。
結局私達には難しい数式など理解できるわけもなく、そこには美しい記号の列が踊っているのみで、ドイツ語でもない未知の言語でコミュニケートする2人の学者のハッタリ具合が最高に良い。
これを二部構成というなら、第2部の脱出するシークェンスの数々とその前までのスパイのシークェンス。緩急のつけ方は、素晴らしいのだが、なかでも第2部の突如物語に闖入してくるポーランド人女性がよい。彼女の登場によってまったく違ったリズムが映画に吹きこまれ、何ものにも供しない心地よい弛緩が生まれ、その次に続く、『知りすぎた男』を彷彿とさせる劇場のシーンへと突入するのだ。ここでも、切迫した状況でありながら、無理矢理弛緩させられる。
しかし一番感じ入ったのはバスのくだりである。建物の扉を開けるとそこには路線バスが鎮座している、中にはエキストラも乗っている。これはあきらかに撮影そのものの風景であろう。そして実際、リアプロジェクションにおいて、バスは一寸も前には進まないのだから。建物(その建物もセットである)の中に佇むバス。それも偽物の路線バス。『裏窓』を撮ったこの監督ならば、この意味を考えていない訳はなかろう。本当にこのバスは素晴らしい。