クリント・イーストウッド『許されざる者』アメリカ、1992年 をビデオで

イーストウッドはこの作品の中で何度も何度も倒れる。執拗に地べたに打ちつけられる。これはかつては悪名を馳せた彼が、今や「ただの農民」で腑抜けになっていることを意味しているだけではない。倒れるたびにその地面との衝突に付せられる意味は徐々に深刻さを増している。
マーニーは一度それを決意してからというものの、決して賞金目当ての殺しを迷ったりしてはいない。だからこの倒れるということが一種の儀式として彼を徐々に昔の姿に戻しているいうのとも少し違う。伝記作家が語るような過去の姿に戻ったとしたら、決してこのような物語は紡がれないだろう。かといって彼の許されざることを罰しているわけでもない。なにかを確かめるようにあえて何度も土に身体を打ちつけているかのようだ。
マーニーは雨に打たれ朦朧とする中、保安官に殴られて倒れる。顔にはしっかりとその傷痕を残し、再生とは単純にはいいきれないような生まれ変わりの仕上げが始まる。その後「3日間」倒れたまま生死の境をさまよう。そして次には一人目の獲物を始末する。その後決してイーストウッドはなにがあっても倒れることはない。
ちょっとこの映画の凄さを語るのには少し時間がかかりそうなので、この場ではこのあたりで…。