クリスチャン・ネイビー『遊星よりの物体X』アメリカ、1951年 をビデオで

"THE THING"の宇宙人というよりも怪人と言ったほうが似つかわしいような、その造形など及びもつかぬほど素晴らしいのは、円盤である。
もちろん、このフィルムの中で空飛ぶ円盤はスタビライザーの先端らしきものが氷からのぞいている以外は、全く姿を見せない。このフィルムで見ることが出来るのは、氷の中に確認した機影に沿って、軍人とブン屋が等間隔にその輪郭を示すショットである。このショットが素晴らしいのは、もはや氷の中の物が大きいからでも、劇伴が古典的な意味で素晴らしくタイミングよく鳴り響くからでもない。彼らが美しい円陣を無造作に作り出すその動作と、映像そのものの絶対的な戦慄。この際、もはや氷の中に円盤が埋まっているなどという物語上の理由はどうでもよいほどに、このシーンだけが、異様なまでに迫ってくる。
この無用の素晴らしさは、このフィルムの冒頭におけるポーカーのシーンからしてそうである。ブン屋がやってきて、軍人他愛も無い雑談、物語の発端となる雑談をするシーンなのだが、テーブルについている3人の人間のポーカーの手さばきがあまりに見事なので、字幕を追うのを忘れポーカーに釘付けになるほどである。

遊星よりの物体X《ニューマスター版》 [DVD]

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余談だが、制作のハワード・ホークス自身が監督したという噂(というか、今回観てみるまでホークスが監督だと思いこんでいた。ホークス好きで知られるジョン・カーペンターがリメイクしたくらいだから、と)もあるようだが、真相はどうなのだろうか。フィルム中心に考えると絶対的に大事ではないという気もするが、やっぱり気になるのが人情というものだ。