アルフレッド・ヒッチコック『フレンジー』イギリス/アメリカ、1972年 をDVDで

このフィルムで直接描かれている殺人は2件であるがそのどちらも直後の描写が素晴らしい。1件目の第1発見者である秘書が建物に入り、しばらく経ち、女性が通りを歩いてきて、ちょうどよいところで叫び声をあげるカットと、2件目のバーバラが殺された後、そっと部屋を抜け、階段を降り、表へ出て、街の喧騒にキャメラが紛れるカット、どちらも豊でスリリングで引き締まった凄まじい時間が流れるカットである。
この2件の殺人が行われた部屋が、どちらも2階であり、入り口からすぐの階段を上がる構造になっていることはこれまでヒッチコックの映画を観てきたもにには言わずもがなであるが、それでもラストで「バールのようなもの」を握り締め、手すりを汗ばんだ手でさすりながら階段を上っていく主人公を見るとそうと解っていても興奮する。階段を上り下りしないことには物語は進まないのだ。
ここでは階段こそが本当の感情が吐露される場であり、それ以外の場での紳士ぶりや激昂ぶりはこれに比べるとフィルム的には真実ではない。ラスクもまた、階段の上ることによって、真の自分を発現させるのである。