ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ(ダルデンヌ兄弟)『息子のまなざし』ベルギー/フランス、2002年 をビデオで

小津を語るような口調で言うと、この邦題の「まなざし」は的を射ている。この浮世で揺れ動く心理と人間関係とは、「ドキュメンタリータッチ」というもはや唾棄すべき用語で語られるようなキャメラワークによって鮮やかに捏造される「息子のまなざし」によって見事にこの映画そのものが見返されている。
終始キャメラが追っているのは、親父のうなじである。そのうなじ越しに見えてくる「世界」である。まさに不在の息子は親父をじっと見つめているのである、そして親父と少年が憎しみと怒りと畏れと公開を乗り越えてお互いに受け入れ合おうとしたその瞬間成仏し目を閉じるのである、といえば合点がいくが、この見かたも必ずしも正しくないような気もする。
そのような見かたが物語としても極めてスマートに出来ていて、ダルデンヌ兄弟の作品のかでも珍しくテーマがすんなり読める、と思われることからも容易に出来うるのだが、それではあの木工場の、資材倉庫の、労働(人間の運動)と物質とを詩的に捉えた、映像の素晴らしさを殺してしまうだろう。ダルデンヌ兄弟の作品で戦慄すべきなのは人間とその心理を極限まで懐疑的にそしてあくまでも現象学的に見つめようとするそのスタンスである。オリヴィエ・グルメが何よりも素晴らしい瞬間は階段を早足で駆けていくその躍動である。この一見偏執狂的なこの中年男性は走っている姿が何よりも素晴らしい。

息子のまなざし [DVD]

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