グレッグ・イーガンの『万物理論』は結構前に読了した。序盤の仕掛けというか「つかみ」の流れで半ばダラダラと少しずつ後半まで読み進めていったのだが、やはりそこで原題にもなっている「ディストレス」が伏線どころか核になってきて、そこでパラダイムシフトというよりもイーガンの作品の場合その全てが融合するとでも言おうか、つまり二項対立的な要素が止揚とはまた違ったような様相で纏め上げられてゆく。この「知的スリル」がイーガン作品の醍醐味だろう。『宇宙消失』における「バブル」と同じような物語上での役割である。この仕掛けの面白さとしては『宇宙消失』の方に軍配が上がると思うが、肝心の万物理論に対するアプローチが実感として非常にスリルがあって、やはり科学と形而上学とはどこか深いところでリンクしているどころか、昨今の「現代科学」の前にその境目がどんどん曖昧になってきていることを心地よい眩暈と戦慄と共に「内臓で感じた」。
ありとあらゆる情報は物理法則に基づいたものであるところの物質なしに記録することはおろか、発することすらできないし、我々の肉体の活動、いわんや脳の活動も物理法則にしたがってなされている。しかしながら、物質は情報であるところの物理法則無しにには存在していない。そこにイーガンのブレイクスルーが成される。物質と情報の混合化である。つまりここでの万物理論は情報と物質とを同時に纏め上げるものであるというのだ。このあたりは無論生兵法なので、巻末にあった「参考書籍」などをあたってみよう。
現在は「S-Fマガジン」2005年4月号に載っている「ひとりっ子」を読んでいる最中。

万物理論 (創元SF文庫)

万物理論 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)