ジャン・ユスターシュ『ぼくの小さな恋人たち』フランス、1974年 をビデオで

それぞれのエピソード、シークエンスが遊離しているようでいて、その遊離のし方がこの作品全体を纏め上げている。それはそれぞれを濃密に個別に渇いた湿気を伴ったまなざしによって、一見感情的に見据えられているかに思われる映像がが所々、冷徹さを持ってささやかにジャンプカットを施されているのを見ればただのノスタルジックな「ほろ苦い」物語を語っているのではなくこれもまた一個の戦いであることを宣言している。
アイリスやフェイドアウトを多用しているのがこの作品にある種のリズムと、刹那的な時間感覚を催させる。この映画には何度もの終わりがありながら始まりはない。ある種絶望的な映画であるといえよう。「目を閉じるとふたりきりになれた」というのは本当だろうか、目を閉じた先にある闇を最もこの映画は畏れ、それと同時に惹かれているのではないか。その後その少女と何度かキスをするときダニエル少年は決して目を閉じることはないし、その後もこの刹那的な出逢いの少女を見詰めることを望むし、何よりもっと見詰めていたかったのにキスをされたと告白している。
全篇を通してついてくるダニエルのモノローグは一種二重人格的で、思春期の「心ここにあらず」といった感情をうまく表象していると同時に何よりも、我々と共に見詰めている映像に対しての批判になっている。先に挙げた終盤の少女とのシーンにおけるモノローグが最たるものだが、必ずしもこのモノローグはそのときの感情を示唆しているのではなく、事後的な視点から挿入されているものである。これはダニエルのモノローグであってそうではない、声はダニエルであるがおそらく違う。ユスターシュのものであろう。かといってこれはユスターシュ作品についてまわる「自伝的」といった枕詞とはいささかも関係もないもである。

ぼくの小さな恋人たち [DVD]

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