鈴木清順『野獣の青春』日本、1963年 をビデオで

実際の時間で考えると、このフィルムのあれやこれやのシーンの中で「省略」されている時間というのはものの数秒である。ただドアを空けて、挨拶を交わすだとか、まさに省略するにふさわしい決まりきった約束的な振る舞いを、ポイっと切っているだけである。が、その一瞬が素晴らしいリズムを生み出している。
片方のヤクザの事務所が映画館の裏でスクリーンが裏側から見えるという素晴らしいシチュエーションなのだが、これを観てそういえばギャングの事務所の裏窓の外に鉄道が通っていてそこから漏れる緑色の光がひどく美しかった映画があったなあと思い出したのだが、それが何の映画だったか思い出せない。悔しい。
それはそうと、このフィルムのなかでこの映画館の裏側から見るスクリーンともう一方の組のクラブの壁一面のマジックミラーという配置はなかなか上手い対比になっていて、程度の差はあれどどちらも同じ根を持っていることが伺える。
そのマジックミラー越しでの風景がまるで映画を見ているようなまばゆさで、やがてキャメラが左に移動したかと思うと、鈍く鮮やかな羽をまとった踊り子が我々の視界のうちにせりあがってくる。

野獣の青春 [DVD]

野獣の青春 [DVD]