ジャン=リュック・ゴダール『ワン・プラス・ワン』イギリス、1968年 をビデオで

『ヒア&ゼア・こことよそ』の「&」もしくは「と」フランス語の"et"に多大な意味があるとすれば、このフィルムでの「プラス」も通常の文脈でいわれるような、1足す1が3にでも4にでも…というような紋切り型のものには当然ならず、等号(=)のようにいつまでたっても平行線をたどり、結局はどんな足し方をしてもユークリッド平面上では解は2でしかあり得ないということが分かる。
ゴダール的な音楽の使い方においてバンドのリハーサル風景はうってつけの題材であることは言うまでもない、未完成の音楽というパッケージに収まる前の生生しい即物的な「音」がカオスから徐々に秩序を持っていきそれがまた放棄されるという過程はすべての音をある意味での音楽に変えてしまうゴダールのフィルムにはもってこいだろう。ラストに流れる完成した楽曲よりも、何気ないチューニングの音、合わないリズム、同じパートの反復とそのズレのほうがより鋭さを持っている。
例えばアンヌ・ヴィアゼムスキーにyes、noの押し問答を繰り広げるシークェンスはローリングストーンズのレコーディング風景の一種の抽象化であり、黒人と彼が朗々と述べる言葉たちは、ミック・ジャガーと彼が唄う「悪魔を憐れむ歌」の歌詞と構造的に同じである。そしてそれらの活動には進展が一向に見られず、ついには団円を迎えることなく、ラストで華々しく、妙に軽やかにアンヌの肢体とキャメラ共に宙吊りにされるのだった。

ワン・プラス・ワン [DVD]

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