ダリオ・アルジェント『サスペリアPART2/紅い深淵』イタリア、1975年 をビデオで

ホラー映画というか、人を怖がらせる映画というのはどこかゲームのようである。ホラー映画ほど、観ている画面の主、誰の視線かということを注意させるものはない。実はすべての映画のすべての画面はイマジナリーな意味で何ものかの視線であるのだが、ホラーほどその本質をつきつけるものはないだろう。愛を交わす恋人たちの視線などよりも、殺意に満ちた視線こそ映画には相応しい。
『欲望』の主人公も務めたこのピアニストは、閉所恐怖症であることが命取りである。だから当然広い場所を好む。友人である、あの哀れなカルロと事件を目撃する広場の広いこと。フリッツ・ラングの『M』を思わせるあの広場の俯瞰ショットはなかなか素晴らしい。しかしこの俯瞰がなかなかの曲者で、一体これは誰の視線かということが気になって仕方なくなる。「幽霊屋敷」を発見し、乗込む場面での屋敷の上から彼を見下ろすショットが恐ろしいのはそれが「視線」であるからに他ならないのだが、実はこれは誰の視線でもなく、軽薄な言い方をすれば不安感を生もうとする制作者の視線である。ボケているように見えたカルロの母親の千里眼にも似た視線と解釈するのはやはり好意的過ぎて、主人公の行動をすべてお見通しだったのはこの映画を観ている私と制作側なのである。
ストーリーの辻褄だけで見るとかなり破綻している部分があるが、恐ろしげな視線との戯れだけで出来あがっているような奇妙な映画である。