小津安二郎『彼岸花』日本、1958年 をビデオで

小津のようなドラマの場合、カッティングの動機となるものはアクションだけではなく会話・ダイアローグ――アクションとしての発話、が大きな位置を占めることは間違いないだろう。奇遇にも先日観た『小早川家の秋』に続いて関西弁で喋る人物が大々的に登場するこの作品は、『小早川〜』が舞台からして関西、主要な人物は全員関西弁で喋って意たのとは違い、関東を舞台にして二人の関西人が闖入してきて物語を動かすという点で、この『彼岸花』はその捉え方の違いが良く分かる。やはり『小早川家の秋』で私が受けたある種殺伐とした印象は、関西弁に由来する小津のカッティングのリズムの変化がその大きな一因であろう。
それにしても田中絹代の素晴らしさ。これほどまでに小津が彼女に顔の表情での芝居を許している、求めているのは嘆息するほかない。2カットほどあっただろうか。そして、妻が夫にはじめて意見する場面。今更指摘すると、蓮實重彦の受け売りみたいになってしまうが、田中絹代が手に持った夫(佐分利信)のスーツをパッと放り投げる仕草。これには戦慄するほかない。これほど静かに、シンプルに、強く、怒りを表現することはほとんど奇跡に近い。
先日から小津のカラー作品というテーマでダンボールから引っ張り出してきて観ているのだが、特にカラーだからどうだというのが本質的な部分でまだ見えてこない。ただ、この作品はカラー第1作ということもあってか、かなり豪華な映画だという印象は、端々から見えてくる。
あと、吉田喜重の『告白的女優論』での彼女も悪い冗談にしか思えなかったが、やはり有馬稲子は好きではない。

彼岸花 [DVD]

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