神代辰巳『やくざ観音 情女(いろ)仁義』日本、1973年 をビデオで

とりあえず日活のロゴが出てフィルムがまわり出すと共に流れ出す、民謡。これで、おお、神代のフィルムが始まったと思ってしまうのだから、もう重症だろう。
例えば後半のあるシーンで、主人公の男が金を取りに行った後、妹が連れ去られる場面のワンショットが素晴らしい。
例えば前半のあるシーンで、岩場の上で、私飛ぶわといって、両手を広げる黒アゲハのような衣装を身にまとった女のスローモーションが素晴らしい。このフィルムではスローモーションが印象的に使われている。しかしそれらは決して凡庸な叙情的な表現ではなくて、動きをつぶさに捉えてそこから新たな響きを見出そうとする、キャメラの機能を駆使した極めて即物的なものである。
いつもながら音楽、音の使い方に目を見張る、別邸に移っている妹が電話を受ける場面ではどこからともなく民謡のような念仏のような老婆の歌声が低く響き渡り、それになんとバッハの『主よ、人の望みの喜びよ』が重なる。これにはさすがに戦慄を覚えた。以降の場面でも同様に流れたので、かなり戦略的に使用していると思われる。
それよりもなによりもやはりこの情念の物語、実相寺昭雄の『無常』と対を成しているようにも思えるこの田中陽造による脚本のフィルムはそれでもシネアストが違えばフィルムもここまで違ってくるのだと言う当然のことが良く分かる。
神代は血と肉とをもって生きつづける。

やくざ観音 情女仁義 [DVD]

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