井口奈己『犬猫』日本、2004年 をDVDで

ある種の日本映画(受け売りを承知で言えば成瀬巳喜男の映画)の系譜にあるのは間違いないだろう。
その証拠に、まずそのことを自ら宣言するように麻布をバックにタイトルクレジットが示される。
これはオマージュ、戯れとするにしても、序盤のこのフィルムの物語が動き始める一つのきっかけ、西島秀俊(古田という役名があるが、彼の場合はいつでも西島秀俊と呼びたい)の部屋を出てゆくスズを捉えた階段の上からのロングショット。遠くに彼女が点になるまでじっとまわるフィルム。この構図がそれを示している。印象に残るショットだな、と思っていると、これと全く同じ構図が現れる。ヨーコが西島秀俊と寝たとスズに嘘をついたあと、怒って飛び出したスズがその階段で西島と出くわし、拳をお見舞いして去って行くショット。
この同じ構図の間をおいた反復は、成瀬の映画で観た。『めし』のあの印象的な路地を捉えたショットである。
ほかにも犬の散歩のバイトににまつわるいくつかのショット(家が分からず迷うショットや土手で転ぶショット)が効果的に使われていて、これらのショットはタイトルからなんとなく考え様としてしまうどちらが犬でどちらが猫かという主題がだんだん曖昧模糊となってきて、どちらもある程度「犬的」でどちらも「猫的」であるという至極当然の考えが浮かぶ(そもそも映画とははそのような「〜的」というカテゴライズを拒むものである)。
しかしやはり先に挙げたショットが決定的である。
本当にこの作品は現代の女同士に設定を映した成瀬の『めし』のリメイクなのかもしれない。

犬猫 [DVD]

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