神代辰巳『赤線玉の井 ぬけられます』日本、1979年 をビデオで

赤線が舞台だからというわけではないと思うが、赤のモチーフが目立つ。
タイトル直後のごく短いカット。1秒もないだろう。0.5秒くらいだろうか。当時の皇太子と皇后美智子がテニスをしているスティル写真からの引用にハッとした(。舞台となった時代の気分を引用して赤線と対比させる意味もあるのだろうが今ネットで検索してみると、ちょうど舞台となった昭和33年に成婚したようだ。赤線宿が姿を消したその年に「新しい」皇室のイメージとして美智子という民間出身の女性が天皇家に嫁ぎ、妾を取らない最初の天皇が誕生した…。と象徴的にいうのは考えすぎ、あるいはあさはかだろうか)、徐々に「君が代」のメロディも頻繁に引用しているのを見ると、ラディカルに扱っているのは明白で、溝口の映画における女性社会において影の存在としての父権制の指摘を考えると、この神代のフィルムでも後半にチラッと姿を現す殿山泰司扮するおやじよりもさらにその父権制の頂点としての天皇が引用されているのであろう。
少しフィルムそのものから脱線した考察になってしまった。
上記以外にもこのフィルムには神代のフィルムらしく様々な要素が混在している。映像によるテクストと、音によるテクストと、文字によるテクストと、滝田ゆうのイラストによるテクストのモンタージュ。これらのモンタージュによって、上記の皇太子夫婦のイメージも相対化されてゆく。特にいつもながら文字テクストの挿入は絶妙で、オフで声を入れるよりも叙情性が豊かである。