オーソン・ウェルズ『審判』フランス/イタリア/西ドイツ、1963年 をビデオで

何という恐ろしいフィルムだろうか。
「サイコ」で有名なアンソニー・パーキンスの顔が、さも当然のようにフランツ・カフカその人の顔に見えてくる。このフィルムの主人公を演じるのは彼以外には考えられないだろう。
映画における恐怖とは決してグロテスクなスプラッターでも、体をビクンとさせるようなショッカーでもない。(私がそういうものをフィクションであると言うことを理解した上であるという留保は付くものの、嬉々として、時には声をあげて笑いながら観る性質であるからというのもあるだろうが)恐ろしいフィルムというのは恐ろしいものをうつしたフィルムでも、ものを恐ろしくうつしたものでもなく、そのフィルム自体が恐ろしいものである。恐ろしいイメージではなく、イメージの恐ろしさがここには現前している。
このフィルムのカッティングの凄まじさは、冒頭の口上を引用して「悪夢的」といえば形容しやすいが、それではあまりにも抽象的で説明したことにはならないだろう。別にコマ落としや、おそ廻しを使っているわけではないのに、人間が移動するシーンのカッティングの凄まじい速さ(テンポの速さといっても差し支えはないと思う)にクラクラする。滅茶苦茶で繋がっていないわけでも、小気味よくジャンプカットを用いているわけでもないのに、物理的な速さを超えて、彼らは空間を突き進んでいく。この映画の空間は普通ではない。これは例えば肖像画家の部屋の裏の扉を開けると裁判所に繋がってるとかいう、イメージの飛躍だけでは済まされない、凄まじい何かがある。
あと、単純に主人公の勤める銀行のイメージが素晴らしい。あの広さ、偏執狂的な整然さ。天井からつるされた蛍光灯、それを滑らかに移動するキャメラ
ここでのキャメラの移動も含めて、このフィルムで私が感じる異常な「速さ」はアリス症候群の症状が出たときのそれに凄く似ていると今思った。

審判 [DVD]

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