スーパーエッシャー展 ある特異な版画家の軌跡 @Bunkamuraザ・ミュージアム

エッシャーの作品は極めて明晰であり、単なる「騙し絵」の域を軽く越えていることは明白である。エッシャーの誠実さはこれは騙し絵であるということを、紙に描かれた絵であるということ(紙に刷られた版画であること)をいわずにはおけない。そもそも遠近法なる技法自体が騙し絵なのであるということ。二次元の平面に描かれたものがあたかも三次元の物体のであるかのように見せる技法であるということに気付かされる。普段から遠近法的見方をしているからこそ騙し絵に騙されるわけである。一連の平面の正則分割の作品を観ている時に、地と絵が絶えず入れ替えて見て、脳みそがうずうずする感覚は快楽としか言いようがない。
そしてなによりも、生の作品を見て、彼の仕事の細やかさにため息が出る。それは彼の自筆のノートなどを見てもその几帳面さ(これを端に偏執狂的だといってしまうのは惜しい)に、その整った小さな文字にも。やはり探求は美しい。