オリヴィエ・アサイヤス『DEMONLOVER』フランス、2002年 @十三第七藝術劇場

何というか「中心」を欠いた映画だと思う。企業買収と、いわゆる「ニューメディア」を扱ったサスペンスというジャンルのフィルムであるのだが、そういったものに対して登場人物たちはどこまでそれを本気で信じ、行っているのかが不明瞭で、映像はどこに中心を据えてよいのか決めかねている様子である。
ヴァーチャルという言葉こそが相応しいのだろう。パリや東京やアメリカといった抽象的な固有名詞が出てくるものの、一体そこがどこなのかよく分からないまま映像は続く。これは押井守が、かつてアニメに対して行った批判がそのまま適用できるような、記号としての場所があるだけである。
ここで繰り広げられている出来事はすべてヴァーチャルに仕組まれているかのように淡々と進行する。ラストカットである少年のPCのモニターからみてとれる彼女の姿は、最初からそこにいたのだということを示しているのであって、「敵」であるデーモンラヴァー社に仕組まれこういう結果になったのだという「オチ」以上のものを示していることは明白であろう。ある意味この映画はSF的なものであるといえるだろう。決してCGアニメなどの技術が直接物語に侵食してくることはないし、ポルノも対象であって自身ではないように見えるが、何か深いところでこのフィルム全体と繋がっているような気がする。つまり我々見るものの手によって、彼女たちのスパイゲームの過程と結末が、アニメやポルノサイト同じ位相になるときこの映画ははじめてその中心のなさが意味を持ち始めるのだろう。
一方、何度かあったパリや東京の街を上方から俯瞰して捉えるショットがこのフィルムの中では場違であるようなある種の豊かさを孕んでいて、その一瞬私はそういう映画を観る姿勢にシフトしそうになるのだがすぐに戻されてしまうのだった。