富野由悠季『機動戦士Zガンダム 星を継ぐ者』日本、2005年 @シネリーブル梅田

宮崎駿に「天才」というレッテルを貼ってしまうならば、富野由悠季はいわゆる天才ではないのかもしれない。素人目に見ても、オープニングの新作映像の技術水準は『ハウルの動く城』や押井守の『イノセンス』と比べると引けを取っているかもしれないが、だからダメと言うことは全くないのは一目瞭然で、名も無き宇宙漂流者のヘルメットのシールドに寄って行き、タイトルロゴが登場するに至るまで、映画のオープニングとして興奮をもたらす最高の部類のものである。「芸能」という言葉を最近氏がよく使っている様に、キメるべき場所タイミングをしっかり押えていて、芸術家でも作家でもないアニメの演出家としての富野由悠季の腕が堪能できる。ここでいう演出とは個々の画の素晴らしさではなく、あくまでも一個の生きた全体としてのフィルムの部分から見える、全体への意思、陰惨な死と破滅ではなく生への躍動する意思である。
お世辞にも「エイジング」なる技術によっても新旧の画の差、線と色の差が無くなったとはいえないが、それでも観づらくは無いのは技術の問題ではなく、やはり演出の問題であろう。新作カットの人物は皆生への意思に満ちていて、決して鬱屈の方へ向かうことは無い、その意思がフィルム全体に作用し、あのラストのテレビ版とは比べ物にならないくらいの戦慄を伴う再会という最高潮を迎えフィルムは躍動し、『II』へと続くだろう。